住まいと健康〜快適で健康な暮らしを叶える「高性能」住宅〜 

一口に「住宅性能」と言っても、その中身は実に多岐にわたります。
「温熱性」「断熱性」「気密性」「換気性」「遮熱性」「耐震性」「耐久性」「省エネルギー性」「耐火性」「遮音性」「防犯性」…。
これらはすべて、私たちが毎日を安心・快適に過ごすために欠かせない重要な要素です。

しかし――
こうした“性能”のことを、家を建てる前にしっかり理解している人は意外と多くありません。
「住み始めてから、ようやくその違いに気づいた」という声も少なくないのです。

例えば、真冬の寒い日に長時間外出し、暖房をつけずに帰宅したにもかかわらず、家の中がほんのり暖かいままだった――。
これは、高性能住宅の断熱性・気密性の高さを象徴するよくあるエピソードです。
一度その快適さを体感すると、もう“普通の家”には戻れない、と言われるほどです。

家づくりの知識は、建てたあとでは取り返せません。
「知らなかった…」では済まされないのが、住宅性能の世界。
後悔しない住まいづくりのためには、正しい知識を早い段階で身につけることが何より大切です。

そこで今回の記事では、専門的な視点から「高性能住宅とは何か」をわかりやすく解説します。
高性能住宅のおもな特徴や、チェックすべき重要なポイントを丁寧にご紹介しますので、ぜひ最後までご覧ください。

目次

高性能住宅とは

高性能住宅とは、住まいに求められるさまざまな性能を高めることで、一年を通して快適に過ごせ、災害に強く、長く安心して暮らせる家のことをいいます。

心地よい居住空間をつくるためには、「断熱性」「気密性」「換気性」が欠かせません。
さらに、地震などの災害から家族を守る「耐震性」、そして建物を長持ちさせる「耐久性」も重要なポイントです。

これらの性能が高いレベルでバランスよく備わることで、
快適さ・安全性・省エネルギー性を兼ね備えた理想の住まいが生まれます。

それでは、高性能住宅がどのようにして「夏は涼しく、冬はあたたかい」暮らしを実現するのか、
その魅力をもう少し具体的に見ていきましょう。

夏は涼しく、冬はあたたかい家

一年を通して心地よく過ごせる家。
高性能住宅は、そんな理想の住まいを実現します。

夏は外がジメジメしていても、家の中はカラッと爽やか。冷房の設定温度が28℃でも、家中どこにいても涼しく、心地よさを感じられます。
冬は朝晩の冷え込みが厳しい日でも、家の中はポカポカとしたあたたかさ。暖房を止めてもすぐに冷え込むことはなく、朝まで快適な室温を保つほど、優れた断熱性能を発揮します。

リビングやキッチン、寝室、玄関、廊下、浴室、洗面室など、どの空間でも温度差が少なく、家中どこにいても快適。
この安定した温熱環境が、体への負担やストレスをやわらげ、一年を通して健康的で心地よい暮らしを支えてくれます。

健康を守る住まい

高性能住宅は、人の体にやさしい環境をつくります。
夏は熱中症や脳梗塞などのリスクを軽減し、冬はヒートショックや心筋梗塞といった危険を抑えることができます。

室内の温度差が少ないため、体への負担が少なく、子どもから高齢者まで安心して過ごせる住環境になります。
急激な温度変化によるストレスを感じにくく、一年を通して穏やかで快適な生活リズムを保てるのです。

さらに、室内の湿度が適切に保たれることで、カビやダニが発生しにくく、アレルギーの原因を減らす効果もあります。
結露を防ぐことは、住まいを長持ちさせるだけでなく、家族の健康を守る大切なポイントでもあります。

結露が家と体に与える影響

冬の寒い日に、窓や壁にできる結露。
ただの水滴だと思って放置すると、カビやダニが繁殖し、アレルギーの原因となるだけでなく、家そのものを傷めることになります。

断熱性や気密性が低い住宅では、壁の内部に湿気が入り込み、断熱材が水分を吸収してしまうことも。
その結果、木材が腐食し、構造体が傷むなど、家の寿命や耐震性能にも悪影響を与えかねません。

高性能住宅では、こうした問題を防ぐために、断熱・気密・換気のバランスを最適化し、結露の発生を抑える工夫が施されています。

静かで快適、省エネな暮らし

高い断熱・気密性能にすることで、冷暖房効率が上がり、光熱費の削減につながります。
また、外の騒音を遮る効果も高く、交通量の多い道路沿いでも静かな住環境が保たれます。

快適さと省エネを両立しながら、経済的にもムリのない暮らしができるのも高性能住宅の大きな魅力です。

強く、長く、安心して暮らせる家

高性能住宅は、快適さだけでなく耐久性と安全性にも優れています。
強い地盤と基礎、適切に設計された構造体が、地震や台風から家を守ります。
さらに、壁内結露を防ぐことで木材の腐朽を防ぎ、家を長持ちさせます。

「断熱」「気密」「換気」「耐震・耐久」——
これらの性能を高めることでで、家族が健やかに、安心して暮らせる住まいが実現します。

これらの性能について、それぞれ詳しくみていきましょう。

快適と健康な暮らしを支える「断熱性」とは

住宅の断熱性とは、夏の暑さや冬の寒さといった外気の影響を受けにくくし、室内の快適な温度を保つ性能のことです。

断熱性能が低い家では、窓・壁・天井・床などを通して外から熱気や冷気が入り込み、室温が外気の影響を受けやすくなります。その結果、室内の温度を一定に保つために冷暖房を多く使う必要があり、光熱費も高くなってしまいます。

つまり、断熱とは熱の移動をできるだけ少なくすること。快適で省エネな暮らしのために欠かせない住宅性能といえます。

熱はどのように移動するのか ― 「熱移動の3原則」

熱は、温度の高い場所から低い場所へと移動します。
住宅では、主に次の3つの方法で熱が移動しています。

  • 熱伝導(約5%)
    金属や壁など、物質を通して熱が伝わる現象です。
  • 対流(約20%)
    空気や水といった流体の動きによって熱が運ばれる現象です。
  • 放射(輻射)(約75%)
    赤外線などの放射線(電磁波)によって熱が移動する現象です。

住宅の断熱性能を高めるには、この3つの熱移動をいかにコントロールするかがポイントになります。

断熱材の種類と特徴

断熱性を高めるうえで重要な役割を果たすのが「断熱材」です。断熱材とは、熱を通しにくい性質をもつ材料のことで、さまざまな種類があります。

  • 無機繊維系(グラスウール・ロックウールなど)
    代表的なのが「グラスウール」。ガラスを溶かして繊維状にしたもの。
  • 発泡プラスチック系(硬質ウレタンフォーム・フェノールフォームなど)
    樹脂を空気よりも断熱性の高いガスで発泡させたものです。小さく細かい気泡が多いほど熱を通しにくくなります。ボード状の製品のほか、現場で吹き付けて施工するタイプもあります。
  • 有機繊維系(羊毛など)
    自然素材由来で、調湿性、防音性を兼ね備える素材。
  • 木質繊維系(セルロースファイバーなど)
    新聞紙などの古紙を再利用して作られた断熱材で、湿度が高いときは吸湿し、乾燥時には放湿する「調湿作用」に優れています。自然素材由来で環境負荷が少ないのも特長です。

断熱材には、それぞれ断熱性能・施工性・調湿性・遮音性・耐火性などに違いがあります。
性能は「熱伝導率」という数値で示され、数値が小さいほど熱を通しにくく、高性能であることを意味します。

なかでも、特に高い断熱性能を持つのが木質繊維系断熱材「セルロースファイバー」です。
自然素材を原料とし、優れた調湿機能によって壁内結露を防ぎ、快適な室内環境づくりに大きく貢献します。

なお、熱伝導率がやや高い断熱材であっても、厚みを増すことで断熱効果を高めることは可能です。
ただし、断熱材の特性を理解し、正しい施工を行うことが何より重要です。誤った施工は、壁内結露やカビ・ダニの発生を招き、せっかくの性能を十分に発揮できなくなってしまいます。

窓とガラスの断熱対策

窓は住宅の中で最も大きな熱の出入り口です。
夏は、屋内に侵入する熱の約71%が窓から入り込み、室内の温度上昇に大きく影響します。
一方、冬は屋内から逃げる熱の約48%が窓から失われ、室内を寒くする主な原因となります。

つまり、サッシやガラスの性能を高めることで、家の断熱性能は大きく変わります。複層ガラスや樹脂サッシなどの採用が効果的な断熱対策になります。

断熱性能を示す指標

住宅の断熱性能は、主に以下の指標で数値化されます。

Q値(熱損失係数)

 壁・窓・屋根・床などから逃げる熱量(熱損失量)を床面積で割った値です。数値が小さいほど断熱性が高いことを示します。
平成11年基準まではこのQ値が使われていました。UA値の0.87は、だいだいQ値の2.7に相当します。

 UA値(外皮平均熱貫流率)

現在の省エネ基準では、Q値に代わってUA値が用いられます。住宅の外皮(壁・屋根・床など)全体から逃げる熱量を外皮面積で割った値で、UA値が小さいほど断熱性能が高いとされます。
単位は、W/㎡・K です。

UA値は地域ごとに基準値が定められており、断熱等性能等級6・7(HEAT20のG2・G3)が世界水準レベルの断熱性能です。

ηAC値(平均日射熱取得率)

ηAC値(イータ・エー・シー)とは、冷房期間中に、外からどのくらいの日射熱が室内に入ってくるかを示す数値で、省エネルギー基準の外皮性能を表す指標の一つです。
季節によって日射の強さや太陽の高さが異なるため、冷房期(ηAC値)と暖房期(ηAH値)をそれぞれ計算します。
値が小さいほど住宅内に入る日射による熱量が少なく、冷房効果が高くなります。

断熱性能の基準と今後

2022年4月からは、「断熱等性能等級5」(ZEH基準相当)と「一次エネルギー消費量等級6」が施行され、さらに同年10月には「断熱等性能等級6・7」が新設されました。
これは、HEAT20のG2・G3基準に相当し、日本でもようやく世界水準の断熱性能が制度として明確に位置づけられ始めたといえます。

※なおUA値は、同じ断熱材・窓等の外皮性能であっても、平面プランや窓等の開口部比率等によって、一棟ごとに異なることも理解しておきましょう。

「気密」のチカラ断熱と換気を生かす家

住宅における気密とは、家のすき間をできるだけ減らし、室内と屋外の空気の出入りを最小限に抑えることを指します。
気密性を高めることで、外気の影響を受けにくくなり、冷暖房の効率を高めながら、計画的な換気を行うことが可能になります。

なぜ気密化が必要なのか

夏の暑いときや冬の寒いとき、室内に常にきれいな空気を取り入れながら、冷暖房の効率を下げずに換気を行うためには、住宅の気密化が不可欠です。

隙間の多い住宅では、せっかく高性能な断熱材を使っていても、外の空気が入り放題で断熱性能を十分に発揮できません。冷暖房の効きも悪くなり、光熱費が増えるだけでなく、夏の除湿や冬の加湿も思うようにいかず、室内の湿度管理も難しくなります。

さらに、気密性が低いと音を通しやすく遮音性が劣るため、音の漏れや屋外の音が大きく聞こえるんどの問題も生じます。

高気密化のおもなメリット

室内の上下・部屋間の温度差を小さくする

気密性を高めると、室内の空気が安定し、上下の温度差が少なくなります。
「暖房しているのに足元が寒い」といった不快感が減り、部屋から部屋への移動時も温度差が少ない快適な空間になります。

計画的な換気が可能になる

気密性が低い住宅では、季節や風の強さによって隙間からの換気量が大きく変動し、換気が多すぎたり不足したりします。
風の強い日にはPM2.5・花粉・砂ぼこりなどが隙間から侵入することも。

一方、高気密住宅では換気経路と換気量を計画的にコントロールできるため、必要な換気量の確保や夏の暖気・冬の冷気の制御が可能になります。これは結露防止にもつながります。

壁内結露の防止

気密性が低いと、冬に室内の湿気が壁の内部や床下、小屋裏に侵入し、外気に冷やされて内部結露(壁内結露)を起こします。内部結露が起こると、断熱材や構造材である木材が長期間にわたって湿った状態になり、カビの発生や木材の腐朽を招きます。この状態が続くと、建物全体の耐久性が著しく低下し、目に見えないところで劣化が進んでしまうのです。

こうしたトラブルを防ぐためには、断熱材の種類に応じた正しい施工が欠かせません。
グラスウールなど繊維系断熱材の場合は、断熱層の室内側に防湿フィルム(ポリエチレンフィルム)を施工することが重要です。これが内部結露を防ぎ、木造建築の耐久性能に重要な役割を果たします。
ウレタンやポリエチレンなど、発泡系断熱材の場合も、テープや発泡剤で隙間なく施工することが高気密化のカギとなります。

熱損失を減らし、省エネ効果を高める

建物にすき間が多いと、そこから空気と一緒に大量の熱が逃げてしまいます。
気密性を高めることで、冷暖房のエネルギー損失を大幅に減らし、省エネ性能が飛躍的に向上します。

気密性能の指標:C値(相当隙間面積)

住宅の気密性能は、C値という指標で表されます。
C値とは、建物全体の延床面積に対して、どのくらいの隙間があるかを数値化したもので、単位は c㎡/㎡ です。

例えば、延床面積 100㎡ の住宅で C値が 1.0 c㎡/㎡ の場合、建物全体の隙間は 100 c㎡(10cm × 10cm)ということになります。

C 値(単位:c㎡/㎡)= 家全体の隙間の合計 ÷ 家全体の延床面積

C値は、室内の空気がどのくらい漏れるか、また外部の空気がどのくらい侵入するかを表す指標で、数値が小さいほど隙間が少なく、高気密な住宅であることを示します。
※C値は建物完成後に気密測定によって実際に計測します。

どのくらいのC値が必要か?

それでは快適な暮らしを送るためには、どの程度の気密性が必要なのでしょうか。
C値がどの程度必要なのか、第三種換気の気密性能と隙間からの給気量の関係の表で見てみましょう。

気密性を高めて、C 値 1.0 c㎡/㎡ にしたとしても、給気口から入る空気の割合は 50% に過ぎません。半分は「すき間」から入る空気ということになります。
換気扇から離れた部屋の換気が適切に行われることは期待できません。
C 値が 2.0c㎡/㎡を切らない場合、換気設備の意味すらないといえるでしょう。

▶ C 値5.0 c㎡/㎡未満
日本の寒冷地(北海道・東北の一部)を除いた地域で、従来の省エネ基準とされてきた数値です。
しかし、このレベルの気密性能では、計画的な換気を行うことはほぼ不可能といえるでしょう。

▶ C 値 2.0 c㎡/㎡未満
日本の寒冷地(北海道・東北の一部)における省エネ基準値であり、一般的に「高気密住宅」といえばこのレベルを指すことが多いです。
また、換気システムをしっかりと機能させるために、最低限確保すべき気密性能でもあります。

▶ C 値 1.5 c㎡/㎡未満
排気のみにダクトを使用する第三種換気システムで、最低限求められる気密性能のレベルです。

▶ C 値 1.0 c㎡/㎡未満
一般的な第三種換気システムで必要とされるレベルです。断熱性能を十分に発揮するためには、換気方式の種類にかかわらず、この程度の気密性能が望ましいとされています。
千葉工業大学・小峰教授の研究によると、C値0.7 c㎡/㎡以下であれば、強風が吹く地域でも隙間風による熱損失の影響がないという報告があります

▶ C 値 0.5 c㎡/㎡未満
このレベルになると、夏は除湿、冬は加湿がしやすくなり、室内の湿度環境が整ってとても快適な空間が実現できます。
参考までに、ドイツの省エネルギー住宅「パッシブハウス」では、C値の基準がさらに厳しく、0.2 c㎡/㎡が採用されています。

理想的なC値は、0.5 c㎡/㎡以下が望ましいとされています。

気密・断熱・換気は三位一体

日本の一般的な住宅の気密性能は、先進国のなかでもまだ低い水準となっています。
快適で省エネな高性能住宅をつくるには、気密・断熱・計画換気の3つをバランスよく整えることが不可欠です。どれか1つでも欠けると、本来の性能を発揮することはできません。

「換気」の大切さと仕組みきれいな空気がめぐる家

住宅における換気性とは、24時間換気システムによって計画的に空気を入れ替え、室内の空気環境を清潔に保つ性能のことです。

換気は、人が生活する住宅、オフィス、店舗など、室内の汚れた空気を川の流れのように外へ排出し、新鮮な空気を取り込むことで、快適で健康的な空気環境を保つために欠かせません。

また、換気と気密は表裏一体です。気密性能を高めるだけでは空気がこもって不快な環境になってしまいます。建物の気密化と計画的な換気はセットで考える必要があるのです。

計画的な換気のポイント

新鮮な空気を取り入れ、汚れた空気を排出する

人が生活する空間には、二酸化炭素や臭気、水蒸気、ホルムアルデヒドなどの化学物質、カビ・ダニ・ほこり、外部からの排気ガス・花粉・PM2.5 など、さまざまな汚染物質が存在します。
これらを計画的に排出し、新鮮な空気を取り入れることが、快適な室内環境の基本です。

室内の空気を清浄に保つ

衣類や布団、カーペットから舞うホコリや、トイレ・ゴミ・人体・調理・喫煙による臭いなども、室内環境を悪化させる要因です。
換気によってこれらを排出することで、衛生的で快適な空気環境が維持されます。

熱や水蒸気を効率よく排出する

キッチンのレンジや冷蔵庫、浴室などでは、多くの水蒸気や熱が発生します。
とくに冬は、発生した水蒸気をそのままにしておくと、室内の湿度が上がりすぎて結露の原因になります。
換気によって湿った空気を外へ出し、乾いた外気を取り込むことで、効率よく除湿することができます。

従来型換気扇では性能が不足する

従来の換気扇は、住宅の壁に大きな穴を開けて外気を取り込む仕組みのため、気密性が低く、断熱性能や省エネ性が大きく損なわれます。
また、換気効率も安定せず、高断熱・高気密住宅では結露などの原因となる場合があります。
そのため、従来型の換気扇では十分な性能を発揮できないのです。

計画換気の3つの方式

第一種換気方式(給排気ともに機械換気)

送風機と排風機を併用し、給気・排気の両方をダクトで行う方式です。
室内の気圧を外気に対して「正圧(プラス圧)」または「負圧(マイナス圧)」にコントロールできます。これを同時給排型換気といいます。
新鮮な空気の供給と汚染空気の排出を機械的に行うため効率的ですが、給気ダクト内に臭いや湿気が溜まると、内部を汚染させるリスクがあります。

第二種換気方式(機械給気・自然排気)

送風機で外気を室内に供給し、排気は自然排気で行う方式です。
室内が「正圧」になるため、ドアを開けても他の部屋から汚染空気が侵入しません。
主に手術室や無菌室など、特殊なクリーンルームで採用される方式です。

第三種換気方式(機械排気・自然給気)

北欧やスウェーデンで最も一般的な方式で、日本の住宅でも広く採用されています。
排風機によって空気を強制的に排出し、計画的に設けた給気口から自然給気を行います。
室内はわずかに「負圧」となり、ドアを開けても室内の空気が外に流出しにくいのが特徴です。

トイレや厨房などの臭いを外に逃さず、計量換気装置として排出量が計算しやすくメンテナンスも容易で、トラブルが少ないことから、住宅の換気方式として最も一般的に使用されるようになっています。
ウイルス対策としても、各部屋で一方通行型の換気ができる第三種換気が有効です。

「耐震 × 耐久」 家の“強さ”と“寿命”を支える基盤性能

日本は世界有数の地震大国です。台風や豪雨など自然災害も多く、長く安心して暮らせる家をつくるには、「地震に強い構造」と「劣化に強い素材と施工」、つまり耐震性と耐久性の両立が欠かせません。

耐震性は地震に耐えるための“強さ”を、耐久性は長い年月にわたって家の性能を保つ“寿命”を意味します。両者は別々の性能ではなく、住まいの安全性と快適性を支える土台なのです。

耐震性とは ― 地震に耐える構造の力

住宅の耐震性とは、大きな地震の力に耐え、倒壊・崩壊を防ぐ性能のことです。
日本の住宅では「住宅性能表示制度(品確法)」に基づき、建物の耐震性能を「耐震等級」という指標で3段階に分類しています。
これは、構造躯体の倒壊や損傷のしにくさを示す重要な基準です。

等級耐震性能の目安想定される強度・特徴
等級1建築基準法レベル震度6強〜7程度の大地震に耐えうる強度を持つように構造計算されており、震度5程度の地震であれば建物の損傷を防ぐ効果があります。
ただし、「震度」という値は地震の被害状況から定められるため、実際には一定の幅があることを理解しておく必要があります。
等級2等級1の1.25倍学校や病院などの公共建築物に求められるレベルに相当し、長期優良住宅として認定を受けるためには、この等級2以上の強度が必要とされています。
等級3等級1の1.5倍住宅性能表示制度で定められた中では最も高い耐震レベルです。
警察署や消防署など防災拠点の建物と同等の強度を持ち、大地震でも損傷を最小限に抑えることができるとされています。

「免震」「制振」との違い

耐震と混同されがちな言葉に「免震」と「制振」がありますが、それぞれ目的が異なります。

  • 免震
    建物と地盤の間に免震装置を設置し、地震の揺れを建物に直接伝えないことで、揺れ幅を軽減する仕組みです。建物全体や室内の人・家具へのダメージを減らすことが目的です。
  • 制振
    建物内部にダンパーなどの「制振部材」を組み込み、揺れのエネルギーを吸収することで、建物へのダメージを和らげます。

どちらも耐震とは異なり、「揺れを受け止める」ではなく「揺れを伝えにくくする」ことで建物を守る技術です。

構造の強さを決める4つの要素

建物の耐震性能は、設計と施工の工夫によって大きく変わります。
特に次の4つは重要なポイントです。

1. 建物の重さ

建物や屋根が軽いほど、地震の揺れによる振れ幅が小さくなり、建物への負担も減ります。

2. 耐力壁の量

耐力壁は横からの力に抵抗する壁で、多いほど構造が強固になります。

3. 耐力壁・金物の配置バランス

筋交いや耐震金物を使っても、配置が偏っていると地震力が一部に集中してしまいます。その効果を十分に発揮できるよう建物全体にバランスよく配置することが大切です。

4. 床の耐震性能

床を強固にすることで構造全体が一体化し、建物全体の耐震性も高まります。

地盤と基礎 ― 耐震と耐久の土台

どれほど上部構造を強化しても、地盤や基礎が弱ければ本当の意味で強い家とはいえません。
しっかりとした地盤の上に確かな基礎を築いてこそ、家は長い年月にわたり安心して暮らせる住まいになります。

基礎は、建物全体の重量を支えるだけでなく、大地震や台風などの外力から家を守り、さらに地面からの湿気やシロアリの侵入を防ぐ重要な役割も担っています。

地盤調査

地盤調査には、「地質調査」と「地耐力試験」という2種類の調査があります。
これらの結果をもとに、必要に応じて地盤の補強(地盤改良)を行います。

地盤改良の方法には、表層改良工法・柱状改良工法・ハイスピード工法などがあり、地盤の軟弱な深さや性質に応じて最適な工法が選ばれます。
これにより、建物をしっかりと支えられる強固な地盤をつくることができます。

基礎

基礎工事とは、建物を建てる前にコンクリートで土台をしっかり固める工事のことです。
コンクリートは固まると石のように硬くなるため、半永久的な素材に思われがちですが、実際には適切な配合や施工精度によって寿命が大きく変わります。

コンクリートは、セメント・砂利・砂・水で構成されており、その強度と流動性が重要な品質の目安になります。
1㎥あたりにどれだけのセメントが含まれているかを示す単位が「KN(キロニュートン)」、そして水の量と柔らかさを確認する試験が「スランプ検査」です。

建築基準法では、コンクリート強度18KN・スランプ21cmが最低基準とされています。
しかし、これはあくまで目安であり、より長く強い基礎をつくるためには、強度30KN以上・スランプ15cm以下での施工が理想的です。
高い技術による正確な配合と施工が、住宅の耐久性能を大きく左右するポイントになります。

構造躯体と木材の耐久性

住宅が台風などによる強風にさらされたときでも、構造躯体(柱・梁・土台・壁)が倒壊や損傷を起こさずに耐えられるかどうかは、その強度と精度によって決まります。
この構造強度を高めるためには、まず木材の品質と乾燥状態が何よりも重要です。

昔から木材は「一に乾燥、二に乾燥、三・四に乾燥、五に大工の腕」といわれるほど、乾燥の良し悪しが建物の耐久性を左右します。
一般的に使われる含水率25%以上(SD25)の木材では、十分な強度や耐久性を発揮できません。乾燥が不十分だと、反りや曲がりが起こり、構造全体に歪みが生じやすくなります。
そのため、含水率15%以下(SD15)までしっかり乾燥させた木材を使うことで、収縮やねじれを防ぎ、長期にわたって安定した強度を保つことができます。

さらに、伝統的な「木造在来軸組工法」に、「面構造(ツーバイフォー/2×4)」の強さを組み合わせたハイブリッド構造を採用することで、耐震性・耐風性・耐久性が一段と向上します。
軸で支える「在来工法」の柔軟性に、面で支える「ツーバイフォー工法」の一体性を加えることで、建物全体がより強固に一体化するのです。

また、耐力壁を適切に配置することで、地震や強風といった横からの力に対しても高い抵抗力を発揮します。
これらの構造的な工夫によって、長く安心して暮らせる高耐久な住宅躯体が実現します。

地震や台風に強い家をつくる「耐力壁」

より強く、安心して暮らせる家を実現するために、「面構造」を取り入れます。
高い耐震性能と耐久性を備えた石こうボード系の耐力壁で、地震や台風などの揺れや風圧に強いだけでなく、耐火性・透湿性にも優れています。
内部結露の発生を抑えながら、優れた防水性・防カビ性を発揮し、住まいを長く健やかに保ちます。

まさに、「災害に強く、長持ちする家」にふさわしい建材として、安心の住まいづくりをしっかりと支えます。

外壁・屋根材と耐久性

外壁と屋根は、風雨や紫外線、地震、火災などの外的要因から家を守る大切な部位です。また、断熱性や遮音性にも深く関係し、静かで快適な室内環境をつくる役割も果たします。

外壁の種類

外壁の種類には大きく分けて、サイディング、塗り壁、タイル・レンガ貼り、レンガ積みなどがあります。
それぞれに特徴があり、耐久性・メンテナンス方法・コストが大きく異なるため、これらを総合的に考慮して選ぶことが大切です。

■サイディング外壁

ボード状の外壁材で、窯業系・金属系・木質系などの種類があります。
工場で生産されるため品質が安定しており、比較的コストを抑えやすいのが特長です。
ただし、耐用年数はおおむね20~30年で、5年に一度のメンテナンス(塗装・コーキング補修)が推奨されます。
また、横張りの場合はつなぎ目のコーキングが劣化しやすく、雨水が侵入しやすくなるため、より耐久性を重視するなら縦張りがおすすめです。

塗り壁

モルタルを下地にして、樹脂系素材・漆喰・珪藻土などの自然素材を塗り仕上げる外壁です。
風合いが美しく、素材の質感を生かしたデザイン性の高さが魅力ですが、ひび割れを防ぐためには、設計精度と職人の施工技術が求められます。
自然素材を使う場合は、調湿効果や防臭効果も期待できます。

レンガ積み外壁

1,140℃の高温で焼き上げられた高硬度・高耐久のテラコッタレンガを使用します。
レンガは縦横に鉄筋を通して構造体にビスで固定しながら積み上げるため、地震・台風・近隣火災にも強い構造となります。
また、断熱性・遮音性にも優れており、静かで快適な住環境を長期間維持できるのが大きな特長です。
経年劣化が少なく、塗り替えなどのメンテナンスもほとんど不要です。

屋根材―耐久性と軽さのバランスが大切

屋根は、直射日光や風雨に最もさらされる部分です。
過酷な環境に耐えるだけでなく、建物全体に余計な負荷をかけない軽さも重要です。
また、外壁と同様に、メンテナンスのしやすさと耐久年数を考慮した素材選びが欠かせません。

屋根材にはさまざまな種類があり、耐久年数とコストのバランスによって選択が分かれます。

チタン合金軽量、超高耐久で約200年の耐久年数がある。ただし非常に高価。
ステンレス
自然石粒化粧鋼板
約50~60年の耐久年数。多少コストは高めだが、長寿命で性能のバランスがよい。
フッ素鋼板軽量で防錆性が高い。
陶器瓦耐久性は高いが重く、構造への負荷が大きい。
セメント瓦
スレート板
軽量だが劣化しやすく、定期的な補修が必要。

なお、チタン合金~フッ素鋼板の重さは約20kg/坪に対し、陶器瓦は約150kg/坪と7倍以上の重量があります。
屋根材の選択は、耐久性だけでなく構造体への負担も考慮することが重要です。

長期的に見た外装の選び方

外壁や屋根は、建物の外部に常にさらされているため、最も劣化しやすい部分でもあります。
短期的なコストだけで判断せず、耐用年数・メンテナンス周期・ランニングコストを総合的に比較することで、結果的に経済的で家計にもやさしい住まいになります。

長く美しく、強く暮らせる家をつくるには、見た目と性能の両立が大切です。

「壁内結露」― 見えない場所で進む建物劣化の原因

壁内結露(へきないけつろ)とは、壁の内部で発生する結露のことを指します。
室内の窓ガラスにできる結露とは違い、壁の中で起こるため目に見えにくく、気づかないうちに進行してしまうのが特徴です。

発見が遅れると、ダメージが広範囲かつ深刻になるケースも少なくありません。
結露によって壁材が腐食したり、断熱材が劣化したりするほか、長期間湿った状態が続くと柱や梁などの構造材まで腐ってしまうこともあります。
さらに、湿気が多い環境ではカビや害虫が繁殖しやすくなり、建物の強度低下や健康被害を引き起こす恐れがあります。

壁内結露が進行すると、建物の耐震性能が十分に発揮されなくなり、住宅の寿命そのものを縮める原因にもなります。
こうした被害を防ぐためには、防湿層の適切な施工や気密性の確保など、壁内結露対策を意識した建築が欠かせません。

強くて長持ちする家は、安心と快適の基盤

耐震性と耐久性は、住宅の「強さ」と「寿命」を支える両輪です。
強い構造をつくり、劣化を防ぎ、長期的に性能を維持することで、

といった、多くのメリットを得られます。

安心・安全な住まいづくりは、見えない部分 ― 地盤・基礎・構造・素材 ― をどれだけ丁寧に考えるかが鍵なのです。

まとめ

気密性・断熱性・換気性・耐震性・耐久性に優れた高性能住宅は、健康に優しく安全性も高く、長い間安心して暮らせる住宅です。
夏は涼しく冬は暖かい。省エネルギーで快適な暮らしを実現できます。
新築だけでなくリフォーム、リノベーションでも各性能を高めることはできるので、ぜひ高性能住宅をご検討ください。

これから土地の購入、住宅、マンションの新築、リフォーム、リノベーションをご計画の方に、ドクターズホームではより詳しくお伝えするために対面、オンラインどちらでもご相談承ります。
お気軽にお問い合わせください。

〈筆者プロフィール〉

長谷川仁龍


住まいのトータルコンサルタント
株式会社ドクターズホーム代表取締役
(一社)国際風水科学協会 副理事長
(一社)日本建築医学協会 副理事長
NPO法人日本自然素材研究開発協議会 理事
シンガポール国立大学 LKY公共政策大学院地政学プログラム修了
松永修岳大阿闍梨のもと、様々な加行を経て、伝法灌頂を授かる

東京都吉祥寺にて前の歌舞伎座を手掛けた棟梁に大工として師事
神社・仏閣・お茶室・一般住宅・RC造・鉄骨造・防音工事など、幅広く教えを乞う
23歳で仁・幸夢店を設立、建築業を開始
33歳の時余命を宣告され、真の健康住宅の必要性を感じる
高性能・風水、建築医学、最先端の知識を活用し、住む人々が財・体・心の健康を整え、豊かな人生が歩める住まい創りのプロデュースを行う

【主な著書】

『しあわせを育む風水健康と幸運を呼ぶ 家づくりの秘訣』
『しあわせになれる200年  健康エコエネルギーの家』
『家族が幸せになれるほんとうにいい家』
『100年長持ちするレンガ積みの家の秘密』
(以上、エール出版社)